「どうしようもない私に天使がおりてきた」話

今から思えばそれはまるで天国からの救いのドアのような気がします。

■ふいに降り立った天使

「すみません、○○○へ向かってほしいんですけど・・・私、過換気症候群なので、
ゆっくり、いつでも休めるようなルートで行ってください・・・」

「過換気症候群・・・」

ドライバーは怪訝な表情をしました。

本当は、私が当時侵されていた病魔は、「パニック障害」というものでした。

息がうまく吸えず、つい過呼吸になってしまう。
激しい動悸がし、ひどい吐き気を覚え、冷や汗がたれました。
そのうち頭がボーッとしてそのまま死んでしまうのではないかという、ものすごい恐怖感です。

途端に私は「発作時」と書かれた紙袋の中から頓服薬を取り出し、持っていた水とともに流し込みました。

しかし、一向のに治まる気配がありません。

他にアレルギー性鼻炎も持病として持っている私にとって、
鼻で呼吸が出来ない恐怖は、まるで死の恐怖であるかのような感覚に取りつかれました。

「点鼻薬を使えばラクになるかも・・・」と思っていた矢先、

「深呼吸しなさい!」という声が。

ドライバーは、何度も、
「深呼吸して!1、2、3・・・」
と完全にパニック状態になっている私に、しっかりするように声をかけてくださいました。

しばらくすると、運転手はおもむろにたずねてきました。

「過換気症候群って本当?」

■心を通じ合えた空間

「いや、違います、ほんとは私、パニック・・・いや、うつなんです」
(「パニック障害」と途中で言わずにやめたのは、当時、その病名を知らない人が多く、
「うつ」と表現したほうが伝わりやすいと思ったからです)

当時の私が住んでいた自宅へは、高速道路を使わず、下道を使っても1時間くらいはかかったはずですが、
時間にして30分~40分くらいたった頃でしょうか。

ドライバーと話しをしているうちに、不思議と気持ちが落ち着いてきました。

ドライバーはこんな話をしてくれました。

「うつの人って頭が良い人が多いんだってね。僕も昔うつだった時期があるんだよ、。僕もとんでもなく天才というわけでは決してないと思うけど、
でも、バカではないと思うんだよね。」

「いや、両親に言ってもわかってくれなくて・・・。必死に訴えているのに、『逃げたいと思うから発作が来るんだ』なんて言ってきて・・・」

「それは、あなたのご両親が、この病気にかかったことがないからなんだよ。この病気の辛さは、実際にかからないと、わからないんだよ・・・」

そのドライバーの言葉は、今まで周りの「冷たい大人」から聞いたことのない、人間味のある言葉でした。

そうこうしているうちに、どうでしょうか、あれほど苦しかった症状は不思議とおさまっていきました。

自宅につくころにはすっかり冷静さを取り戻していました。

「じゃあね、おじさんこの辺走りまわってるから。」
そう言って、ドライバーは再び「仕事場」へと消えていきました。

あの日のドライバーは、私にとって不意に舞い降りた天使でした。